top of page

音楽で育まれる3つのこと

Image by Zetong Li.webp

これまで、世界トップレベルの大学での音楽教育(ハーバード大学やMITなどでのリベラルアーツ教育)、子どもの才能教育(フランスの芸術教育など)、様々な国際音楽コンクール(ショパン、エリザベート王妃、ヴァン・クライバーンなど)を取材・リサーチしてきました。​その中で、「自分を知ること、世界を知ること」が大事だと気づきました。世界を知るほど自分が分かる。自分を知るほど世界が分かる。世界と自分は呼応しあっています。音楽を通して、広く深く世界とつながること。それがリベラルアーツとしての音楽だと考えています。

では、なぜ今リベラルアーツが求められているのでしょうか。それは時代の過渡期を迎え、「未来の社会をどう創るのか」が問われているから。音楽もそこに深く関わっていくでしょう。ここで、音楽で育まれることを3段階にまとめました。

1.音楽で、身体知を高める

”聴く”ことは世界をひらく扉です。聴覚を通して認識したものは、その人にとっての”世界”となります。​五感による知覚の割合は、視覚8割以上に対して、聴覚は1割ほどしか使われていません。聴覚は生命が宿った瞬間から発達し、最後まで残る感覚器官であり、まだまだ潜在能力が眠っていると思われます。聴き方や聴こえ方にも様々な段階があります(→「耳をひらく~グローバル時代の聴力」)。たとえば音楽を聴く時に身体を静止させるより、音に合わせて身体を動かす方が「どんな音がどう鳴っているのか」という認知が高まります(→フランスの小学校での実験)。

 

耳を使うこと、そして耳と身体を連動させることで、”世界”を頭だけでなく身体全体で感じとり、そこで起きていることへの観察力や理解力が高まることを示唆しています。これは創造力にも欠かせない力です。

2.音楽で、人間や世界を深く探究する

日本の高校や中学校でも探究学習が導入されましたが、なぜ?と問いながら探究することによって知覚は深まります。探究が進んでいくと、表層だけでなく、「どのようにそれが創られているのか」(様式やしくみ)、「なぜそれが創られたのか」(動機や思想)、「他国や他分野にも同じような考え方があるのか」など、深層にも意識が向くようになるでしょう。すると自分とは違うと思っていた人やものに、自分と同じような資質や情動を見出して共感することも。それは、すべての生き物のつながり合いを見る右脳が発達してきている証とも言えます。そこまで深まれば、国、人種、性別、世代、職業、科目、分野など、便宜的に分けられていたものの境界が薄れ、ワンネスの意識に近くなります。たとえば平和は、そうした意識を1人でも多くの人が持つことで近づくのではないかと思います。

人間も自然も皆つながっているという感覚は、音楽のあり方に似ています。音楽は集団の絆を深めるために生まれ、生存本能とも結びついていました。また時代や場所が違っても変わらない愛や喜怒哀楽の感情、争いではなく調和を求める感覚や、異種のものをつなげるダイナミックな発想力も刻み込まれています。グローバル社会は今後、このようなダイナミックかつ調和できる感性をあわせ持つ人が導いていくようになるでしょう。

3.音楽で、想像力と創造力を高める

世界は今、「どんな未来を創っていけばいいのか」というビッグクエスチョンに向き合っています。地球環境をどう改善できるのか、どうしたら世界は平和になるのか、人生100年時代に皆が豊かで幸せだと感じられるにはどうしたらいいか、AIや宇宙開発など最新技術はどこまで進化するのか、どこまで進化を許容するのか、等々。そのためには深層に目を向ける必要があります。それは「本当はどうしたいのか?」という心の望み。ハンガリーの物理化学者・社会科学者のマイケル・ポランニーは、「身体や情念を含む個人の暗黙知こそ、科学的な発見を前進させてきた」と述べています。

芸術家は自分自身と向き合い、内側にある感情や感覚を拾い上げて作品に投影させてきました。それが自我を超え、人類共通のものへ昇華された時に、多くの人の心を打ちます。あるいは、まるで天から舞い降りてきたような直感的で純粋なインスピレーションを形にした作品もあります。アメリカの総合大学で芸術や音楽を学ぶのは、未来社会の担い手になる若者が、歴史上の主要人物だけでなく、社会的弱者やマイノリティの声、自然や神秘の存在などにも触れ、人間を含むあらゆる生を深く掘り下げて考えさせる意図があるのではないでしょうか。そうして様々な視点から想像をめぐらせた上で、「どんな世界を創りたいのか」を描き、誰とどの分野と協働すればいいのか、それはサステナブルな発展につながるのか、等を考える。音楽には、望む未来を創りたいという意志を引き出す力もあります。

bottom of page