• essugano

チャイコフスキー国際コンクール


チャイコフスキー国際コンクールが始まって10日。今回時間の都合でなかなかライブが聴けず、アーカイブ映像を見ています(まだアップされてないのもあります)。一昨日第二次予選のモーツァルト協奏曲が終わり、ファイナル5名が出揃いました。会場で聴く印象とは違うとは思いますが、この5名はほぼ順当な結果と思います。途中で落ちて残念だったピアニストもいますが。 昨年ショパンコンクール3位、先月のルービンシュタイン優勝のダニール・トリフォノフは、今回も好調ですね。音楽の中に真っ直ぐ入り込んでいける純粋さ、音楽と一体化できる潔さ、耳の鋭敏さ、美しく多層な弱音を作れる技術、これは群を抜いていると思います。スクリャービンのソナタ、ショパンのエチュードop.25等、彼の個性が生かされたプログラムでは、はっとさせられる瞬間が何度も訪れます。綿密なアナリーゼから導き出された結果というより、和声の変化等を直感的に感じとり、インスピレーションを生かすタイプ、だから音楽の形が一つに凝り固まることがないでしょう。そして韓国の2名ソン・ヨルムとチョ・ソンジンは、やはり周到に準備していますね。ソン・ヨルムは経験豊富で、粒立ちの良い音と湿っぽさなくクールなセンス、鋭角的な構築力、チョ・ソンジンは入念に細部まで作りこんだ音楽を、さらりと弾く優れた技術があります。どこまで自分で作り上げているのかは分かりませんが、ポートレイト映像を見ると17歳とはいえ大人っぽさがありますね。二人とも音楽を正面から捉え、そこから逸脱することなく表現する姿が見えます。 演奏経験豊富で天才の呼び声も高いアレクサンダー・ロマノフスキー。アーカイブがなぜかモーツァルト協奏曲23番しかない??のですが、作品を対象化してみる冷静さと精緻さ、知性が端々に感じられる演奏で、音楽の運びも慎重ですね。 知性とは厄介なもので、それによって作品の本質に鋭く切り込むこともできれば、時に過多になり、対象化しすぎて感情が薄れたり内なる推進力や自然な呼吸を妨げることもあります。客観的に捉えた音楽をどう自身の内在化させて発現させるのか、その場で音楽が呼吸しているような即興性やライブ感をどこまで出すのか、知性と感性のバランスが絶妙に取れた時の演奏を聴いてみたいですね。ここまでは、国際コンクール優勝・入賞常連組です。そして、アレクセイ・チェルノフ。彼は現在英国で学ぶロシア出身ピアニスト。名前は初めて聞きますが、補欠で繰り上がりだったのですね。特に第二次予選ソロでのシューマンの交響的練習曲、パーセルの組曲などが素晴らしかった。(第一次予選はアーカイブなし?)深く落ち着いた呼吸、確かな構築力、性格の豊かな描き分け。基本がわかっていて自由に遊べる、優れたアーティストですね。ところで数日前コンクールのプレス事務局より、英国のジャーナリスト、ノーマン・レブレヒトの記事が送られてきました。チャイコフスキー審査員の眼に涙、というタイトル。審査員の一人ピーター・ドノホーが一次予選結果発表時に思わず涙をもらしたそうですが、「29名中26名を通過させたかったのに、17名しか選ぶことができない」と過酷な審査の模様を語っています。実力伯仲であればあるほど、審査員の判断の難しさも増します。 今回は前回3位のアレクサンダー・ルビアンツェフが出場していましたが、残念ながら彼は決勝には進めませんでした。二次予選結果発表後、寂しそうな表情をしている彼の周りに何人ものファンが集まり、ブラボーと惜しみない拍手が何分間も贈られました。一瞬何が行ったのかと思いましたが、暖かいファンの存在が彼の心を少しでも和らげているといいなと思います。スクリャービン等には類まれな音に対する感覚や閃きを発揮したルビアンツェフ、モーツァルトの無垢な音も印象的でした。しかし個人的にはその才能をさらに高みに押し上げる何か、がもう一つ欲しかったかなという気がします。鋭敏な感覚でとらえた音楽を、咀嚼して奥行きを見出していくプロセスでしょうか。内なる自分と客観的に向き合うことなのかもしれません。 一方、決勝進出できなかった中には新顔もいました。フィリップ・コパチェフスキーは一次ラヴェルのラ・ヴァルス、二次シューマンのクライスレリアーナなど知力に裏付けられた感性が爆発し、小さな世界に縮こまらない演奏。まだ21歳。・・・と書いたところで、数年前までは20歳を超えると、いわゆる「コンクール年齢」としては決して早くないという印象だったことを思い出しました。最近は20代後半、30代の参加者も増えているので、21歳は平均かむしろ若い方でしょうか。コンクール優勝や上位入賞を引っ提げてくる猛者が多い今回のチャイコフスキー。持って生まれた音楽的才能、そして自己を高めていける才能、その二つが組み合わさった時、コンクール挑戦を重ねていく意味が生まれるのでしょう。どんな目的で受けるのか、いつまで受け続けるのか、どう準備し、その結果をどう受け止めるのか。コンクールの選択肢が増えているだけに、個人に委ねられる選択や判断もまた難しくなっています。

#国際コンクール

0 comments

Recent Posts

See All

私が「耳がひらいた」と思った瞬間

皆さんは今まで、どんな音を聴いてきましたか? 今は、どんな音を聴いていますか? 私が子どものころ、最初に聴いたのはチャイコフスキーのバレエ音楽でした。5歳の頃からピアノを習い、チェルニー、ブルグミュラー、モーツァルト、バッハ、ショパンなど色々弾きました。今でも忘れないのが小4の夏休みにした、アルトゥール・ルービンシュタインのショパン演奏を聴きながら、それを真似して弾くという遊び。真似するとなると、

『耳は世界への扉』関連ブログを始めました!

『耳は世界への扉』ポッドキャスト番組開始にあたり、同じタイトルのブログを始めました!こちらは読み物中心となります。どうぞよろしくお願いいたします。 Vol.1 「耳が自分の世界を創る」 Vol.2「音楽は情と知に働きかける」 Vol.3「音楽はどのように聴かれるのか?」