• essugano

私が「耳がひらいた」と思った瞬間

皆さんは今まで、どんな音を聴いてきましたか?

今は、どんな音を聴いていますか?


私が子どものころ、最初に聴いたのはチャイコフスキーのバレエ音楽でした。5歳の頃からピアノを習い、チェルニー、ブルグミュラー、モーツァルト、バッハ、ショパンなど色々弾きました。今でも忘れないのが小4の夏休みにした、アルトゥール・ルービンシュタインのショパン演奏を聴きながら、それを真似して弾くという遊び。真似するとなると、音を真剣に聴きとるようになるんですね。一方、少し不思議な音色や音楽に触れたときの感覚もよく覚えています。たとえばバルトーク「子どものために」、プロコフィエフの曲、シューマン「予言の鳥」など。また新体操やフィギュアスケートを観るのも好きで、選曲が多様であることや、その解釈や振付が大胆であることが、音楽に対する興味をより膨らませてくれました。さらに小学生の頃はエジプトに3年間住んでいたので、街中に流れるコーランの音やアラブ音楽も日常的に耳にし、その不思議な音色を興味深く聴いていました。同じく小学生の頃、ドイツの戦争映像を観て以来、しばらくドイツ語の音声が聴けない時期がありました。その後美しいドイツ語を何度か聴いて癒されましたが。聴覚というのは本能と繋がっているので、幼少期はとくに敏感なのですね。

・・・


思い返すと小さい頃から「耳がいいね」と言われる機会はありました。でもどの程度良いのかは分からないし、そもそも自分にその自覚はありませんでした。どの音を聴くかという神経回路は小さい頃に育まれますが、たしかに様々な音を受けとめていたと思います。しかし思春期になるとそれが高じ、カルチャーギャップも手伝って周囲の声が気になり、場によっては自分の声を出すのが億劫になる時期もありました。とても良い友人や先生、環境に恵まれていたのですが。今から考えれば、少々聴覚過敏であったかもしれません。翻っていえば、聴くことによってこの世界を感じ取り、行動していたのだと思います。


聴くことに関して転機になったのは、2003年浜松国際コンクールでした。何十人もの演奏を数日間で聴くという、今までにはない体験をしました。課題曲があり、フリープログラムでも同じ曲を選ぶ人がいたので、一挙に聴き比べができたのです。「こんな弾き方があるんだ!解釈は多様なのだ」ということが直感的に分かりました。複数の演奏を聴くことによって、その音楽が求めている姿や本質というのもより明確に見えます。ここで一気に耳がひらいたのかもしれません。


その後、音楽ジャーナリストとして世界中の国際コンクールを取材することになりました。演奏を通して、演奏者の考え方や音色に対する感覚、音楽に対する向き合い方なども見えてきます。その人が聴き取り、内側で鳴り響かせる音、つまりその人の「聴く力」が、楽器を通して演奏に反映されるわけです。「聴く力」というのは、”この音楽、この世界をどう受けとめるのか”の原点になります。そんな取材体験をまとめたのが、オンライン連載「耳をひらく~グローバル時代の聴力」です。

・・・


では、どのようにすれば「聴く力」が高まるのでしょうか?またそれを創造力につなげられるのでしょうか?

今の自分を創っているのは、過去の自分です。幼少期から今までを振り返ると、「何を聴き、誰のメッセージを受け取ってきたのか」が分かると思います。それがいつしか、自分の内なる声になります。一方、未来の自分を創るのは、今の自分です。「何を聴き、どんなメッセージを受け取るのか」-選択肢は幅広くあります。つまりチューニングを変えることもできるのです。


今まで「何をどう聴いてきたのか」を見直し、あらためて「何をどう聴いていくのか」「何を自分の内なる声として聴くのか」を考えること。音楽の中にはあらゆる人間の体験や感情、自然や宇宙の真理があります。それを聴きとる力が、未来を創造する力になります。

Recent Posts

See All

情報豊富な時代、リソースをいかに活かすか?

2018年もはや大晦日となりました。今年も何と早かったことか!遅ればせながら10月~12月のニュースをまとめてアップさせて頂きます。 10月末、Piascore(スマートデジタル楽譜リーダー)小池さん主宰による、国際楽譜ライブラリーIMSLP創始者のEdward Guoさんとの会食に参加させて頂きました。PiascoreもIMSLPも愛用させて頂いてます。 Guoさんはニューイングランド音楽院で作