音を知覚するプロセス・第3~4ステージ
聴いて広げる、自由な発想力
●「なぜ?」を追究していくと、発想が広がる
知覚のプロセスが進んでいくと、次第に長い文脈が捉えられるようになり、論理を理解する力が身についてきます。音楽でいえば、楽曲全体の流れや構造が分かる、ソナタや舞曲などの形式が理解できる、など。いわばパターン認識です(第3ステージ)。それに対して、楽曲と楽曲の関連性を学ぶ、暗喩や隠された意図を考える、楽曲の歴史的意義を探る、社会的背景や文化的要因を探る、などはもう一歩踏み込んだ学びです(第4ステージ)。一見見えない繋がりや関連性を見出していく、これは科目横断的な学びとなります。
もう一歩踏み込んで学ぶためには、「なぜ?」が原動力になるでしょう。つまりここに哲学的な問いかけが生じます。たとえば「どうやってバッハの平均律を弾けばいいのか?」は第3ステージ的な問いですが、「なぜバッハは平均律を書いたのか?」というのは第4ステージ的な問いかけです。この問いかけをすることによって、より広い領域で対象を捉えることになり、より多くの視点から考えることになります。またその中から、時代を越えても変わらない普遍的な価値観が見えてくるはずです。リベラルアーツの学びは、深いレベルでの自己対話を促し、それはいずれプログラム構成や音楽表現に現れてくるでしょう。なお2020年度大学入試改革では、こうしたクリティカル・シンキング、クリエィティブ思考が問われると言われています。
●今、なぜリベラルアーツなのか?
今、社会ではリベラルアーツの学びが広まっています。なぜでしょうか?リベラルアーツの起源は古代ギリシアに遡ります。哲学者プラトンが設立した学園アカデメイアでは、音楽を含む教養科目が教えられていました。当時学問としての音楽は、数学者ピタゴラスの考えを受け継ぎ、自然の創造物を数によって解き明かす四学科(数論・幾何学・天文学・音楽)の一つと考えられ、音楽=調和(ハルモニア)の理論とされていました。また当時はリラを弾けることが、教養人の証でもありました。
その後この課目は古代ローマ帝国へ引き継がれますが、帝国が滅亡し、新たな世界秩序が構築されていくなかで、「何を教養として学ぶべきか」の議論が重ねられ、紀元6世紀ごろに課目数が収斂・定着していきました(自由七課)。新しい考え方や世界観が登場し、既存の価値観だけでは通用しない状況になると、人は誰でも「真理は何か、時代が変わっても通じる価値観はなにか」を知りたくなるのかもしれません。それを踏まえたうえで、新しい時代を創るために。今も同じような状況にありますね。
●未来世代に活かしたい「音楽で学ぶ」教育
音楽は世界の真理へつながる糸口としての役割を担い、その後カトリック系修道院、中世の大学へと受け継がれていきました。さらに世界中へと広がり、今は学び方も多様になりました。筆者はそれらを3つの流れに分類し、古代ギリシアを起源とする「音楽も学ぶ(リベラルアーツ)」、17世紀頃に生まれた「音楽を学ぶ(専門教育)」、21世紀に広まりつつある「音楽で学ぶ(未来型人材教育)」、としています(詳しい歴史的経緯は、拙著『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』をご覧ください)。
なかでも「音楽で学ぶ」は最近米英に見られる傾向ですが、音楽を通して創造力や探求力を学んだり、音楽を人文学的、学際的に学ぶ方法で、日本でも未来世代の教育に活かせるものと期待しています。それを綴ったのが『未来の人材は「音楽」で育てる』です。
音楽は広い世界とつながっています。音楽はまた深い内的世界ともつながっています。時代の節目を迎えた今、思考を自由に広げ、より広く、深い世界とつながっていくこと。大きく広がった想像力は、創造力(第5ステージ)へと発展していくでしょう。
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→第3~4ステージ
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音を知覚するプロセス・第3~4ステージ
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